エンターテインメント目指す
 「ジュー」。香ばしい香りを漂わせ、能登和牛のステーキが焼き上がった。買い物客が周りを取り囲み、切り分けられたあつあつの肉に舌鼓をうつ―。食品スーパーでおなじみの実演販売。これがどんたく西南部店では、パフォーマンスになった。

 広い通路の中央に、まな板を置いた常設の調理台。天井からは、「クッキングサポート」と書かれた行灯(あんどん)型の大きな看板。いやが応にも来店客の目を引くこの場所で、店員は鶏をさばき、牛肉を焼き、トンカツを揚げる。特に、週末は子どもたちに大人気だ。

 精肉ばかりではない。惣菜コーナーには、ガラス張りのオープンキッチンを採用。「DELICA LIVE(デリカ・ライブ)」の名称で、来店客が洋食店で修業したシェフの調理の様子を見ることができるようにした。

 どんたく西南部店が目指すのは、エンターテインメント。「家族で買い物に訪れて、楽しい店」だ。高知や大阪などで成功している店を参考に、構想を練ったという。

 さらに、青果コーナーには、能登に本社を置く強みを生かして、毎朝、七尾から直送される新鮮な野菜を集めた生産者直売コーナーを設置した。特に、長ネギは「陳列から4時間内の販売」を心掛け、14時と18時に入れ替えるこだわりぶりで客の関心を集める。

 新谷健一店長は「うどんやモヤシを5円で販売しても、うちのような小さいところは勝てない。だから、ほかにはない店の作り方をして、魚も肉も青果も、品質や鮮度が他店より一つ上のものを入れ、それをアピールすることで差別化していく」と経営戦略を語る。

 能登に10店舗を構え、同地域ではシェアナンバー1のどんたく。金沢への進出は、能登の過疎化を見据えての決断だったという。「七尾の人口は6万人。金沢は競合店が多い激戦地だが、人口が46万人なので、認められればお客様を呼ぶことができる。それが魅力」(新谷店長)と、新天地に夢を描く。近隣には大型店の御経塚サティをはじめ、競合店がひしめくものの、1日あたりの来店客数は1,700~1,800人を確保し、手ごたえを感じている。同社では、「今後も、金沢で1年に1店舗出していく」と、意気盛んだ。
ターゲットはお年寄り
 「金沢にない店」をキーワードにしたどんたく西南部店と好対照なのが、11月25日に金沢市春日町にオープンしたマルエー春日店である。奇をてらわず、品質を重視した不足のない品ぞろえで、地元住民らにとって身近な店になりたいと願う。

 県内シェア2位で、ほぼ毎年、1店舗を新規開業して拡張を続けているマルエー。同店は同社にとって24店舗目、同市内では8店舗目となる。近隣には地域密着型スーパーが乱立するが、「強豪」と見る郊外型大型店はないことから、約10年をかけて周辺で土地を探し、ようやく開店にこぎつけた。

 店内はわかりやすい構造で、青果コーナーは野菜ごとに区切りを作って整然と並べ、買い物客が手に取りやすいようにした。また、地場資本のスーパーとして、「地域の食文化を守り、安心・安全の食材を提供する」との方針のもと、地場産の食品を多く扱い、「地物野菜」「地物鮮魚」のコーナーも設ける。

 1日の目標来店客数は1,800~2,000人で、年間売上目標は約10億円。同社の他店舗と比べると「小規模」(同社)であるが、「近くの方に繰り返し来てもらう小商圏・広視野型を目指す」という。

 オープニングセールを行った25日は、開店時間の9時前から手押し車を押したお年寄りや高齢夫婦らが長い列を作り、駐車場に入りきれない車も。同社幹部は「お客様の年齢層を見ていると、ほとんどが高齢の方だ。『買い物難民』が問題になっているが、高齢者が歩いて行ける場所に、普通の生活の買い物の場を作ってあげることが私たちの務め」と、新店舗が果たす役割をかみしめる。
改装、スタンプサービスで対抗
 これに対し、既存店の反応は様々だ。

 どんたく西南部店から約700メートルの距離にある東京ストアー西南部店(金沢市八日市出町)は、10月14日の同店開店を前に店内を改装し、同9日、リフレッシュオープンした。需要が多い惣菜売り場を2倍以上の広さに拡張して品数を増やし、18時、19時になっても揚げたてを提供できるよう、店員の勤務シフトを変更した。また、意識的に、七尾に水揚げされる鮮魚や能登の野菜の入荷を増やした。

 さらに、11月に先駆けて、9月から22時の閉店時間を24時までに延長し、夜間の買い物客の取り込みを図っている。こうした営業努力に加え、近郊で1店舗が閉店したこともあり、どんたく西南部店オープン以降の来店客数と売り上げは、以前よりも伸びているという。

 周辺は20~30年前に越してきた世帯が多い住宅地。住宅ローンと子育てが終わり、食費に充分な支出ができる世代が暮らし、新しい家の建設も進む「出店する側にとって魅力的な場所」という。このため、30年前は同店1軒だったスーパーが年々増え、今では10軒近くの店の商圏が重なり合う。近辺には、白山市に開店した大阪屋ショップ松任店の特売チラシも入るという。他の県外企業の出店計画も進んでおり、寺島秀之店長は「価格で競争するのはもちろんだが、珍しい良い品を置き、特売に来られたお客様にうちの店の良さを知ってリピーターになってもらう。そうしないと生き残っていけない」と話す。

 マルエー春日店から約300メートルの「NALX(ナルックス)なるわ店」(鳴和1)では、同店がオープンした11月25日、買い上げ金額に応じて付与するスタンプの数を増やすサービスで対抗した。来店客の減少を心配したが、ふだんの平日の平均を上回る数の買い物客が訪れたという。

 翌日からは特別のイベントは行っていないが、同店を経営するナルックス(同)では、「多少は影響があるかもしれないが、2~3カ月のスパンで見ないとわからない。近郊ではニュー三久小坂店さんが今年春に閉店したので、マルエーさんのオープンで、ニュー三久さんの閉店前に戻ったような感じではないか」と、しばらくは静観の構えだ。
世間話と配達で心つかむ
 一方、「全日食チェーンナイスデイナオエ元町店」(同市元町1)では、マルエー春日店の開店日はオープニングセールのあおりを受けて、来店客が減少した。小岩秀次社長は「今後の影響はわからない」としながらも、「お客様は新しいお店に1回行った後、また戻ってくる。これまでもそうだった。その時にしっかり受け止めてあげることが大切」と語る。

 周辺は昔ながらの住宅街で、車を持たない独り暮らし、高齢夫婦の2人暮らしの世帯も多い。来店時に店長や店員らと世間話をするのを楽しみにしている常連客もいて、「特にお年寄りは、5円、10円安い店よりも、ぬくもりのある店を選ぶ」という自信がある。同店では、米や調味料など重い商品を買った高齢者には、自宅まで無料配達するサービスもする。ただ、新店舗の至近距離に住む客を中心に、来店客の2~3割が減ることも想定し、違う商圏の開拓にも乗り出すという。
「勝ち組」と「負け組」に二極化
 市内への出店が相次ぐ状況に、スーパーを経営する会社の幹部社員の1人は「金沢市内は既にオーバーストア(人口に比べて、スーパーの数が多い)で、経営は厳しい。必ず、つぶれるところが出るだろう」と、顔をしかめる。別のスーパー経営者も「『勝ち組』と『負け組』に二極化しており、いかに『勝ち組』に入るかのしのぎ合いだ。資本力があり、きちんとした戦略、システムができたところが勝つ」と、表情を引き締める。

 景気の先行きが見えない中、買い物客の財布のひもも固くなっている。買い物客1人あたりの購入金額は減少し、どんたく西南部店の新谷店長は「金沢のお客様は必要なものだけを買うように見える。購入金額が七尾より1割ほど少ない」と驚く。業界内で「繁盛店」の目安となる1坪あたりの売上額も、以前より2,000円程度下落しているという。

 競争によってサービスが向上し、安全でおいしいものを安く買うことができれば、消費者にとってはうれしい限りだが、「負け組」が生まれ、身近な場所から店舗がなくなっていけば、車を持たない高齢者を中心に、食料品など日常の買い物が困難な「買い物難民」を生むことになる。

 折しも11月12日、金沢市が「買い物利便性向上検討懇話会」の初会合を開いた。「買い物難民」が全国的に問題となる中、特に高齢化率の高い旧市街地で現状を調査して、問題があれば対策を考えるのが目的だ。事実、総務省の商業統計によると、同市内の飲食料品小売業者は、1999年6月には1,680店舗あったが、2007年6月には1,460店舗に激減している。

 かつてスーパーの台頭に伴い、街から個人商店が消えていったように、スーパーもまた淘汰(とうた)されていくのか。「戦争」の行く末はまだ見えない。