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なぜ今、地方の企業が全国発信の映画を作るのか

映画「RISE UP」

 「RISE UP」は石川県白山市にある獅子吼(ししく)高原を舞台に、パラグライダーを題材にした青春スカイムービー。パラグライダーに情熱を注ぐ主人公の高校生・航に「バッテリー」で脚光を浴びた林遣都(けんと)さん、盲目のヒロイン・ルイ役に12代目「三井のリハウスガール」の山下リオさん、監督には第29回ぴあフィルムフェスティバルで3冠獲得、第7回ニューヨーク・アジア映画祭でも最優秀新人賞を受賞した中島良さんを起用した。

 「映画を作ろうと思って作ったわけではない」とフォーティックデザイン取締役でマーケット開発部長の土田一登さん。同社が映画事業に乗り出したきっかけは5年前にさかのぼる。当時、経済産業省が今後注力していく産業の一つとして掲げたのが映画、アニメ、ゲーム、音楽、出版などに代表される「コンテンツ産業」だった。日本のアニメは全世界に認知されており、著作権ビジネスとして確立している。しかし映画はどうか。日本の映画文化を育ててきた大手配給会社や製作プロダクションの存在は大きいが、ハリウッドのような「世界市場」においてはまだ途上にある。「確立されていないからこそ地方にチャンスがあるのでは」。土田さんはそこで初めて映画に注目した。印刷業界は典型的な受注産業であることから、今までにない新しいものを自ら作り出していく事業に取り組みたいとの野心もあった。

 もう一つ土田さんの背中を押したのは地域活性化への思いだ。地方発の映画を作ること。それはさまざまな面で地域に元気をもたらす。地方を舞台にした映画はたくさんある。しかし東京発の企画で地方ロケという形が大多数だ。地域内で完結している作品もあるが「ビジネスになっていない作品が多い」と土田さんは指摘する。石川を映画のロケ地として使ってもらうのではなく、石川発の映画づくりにこだわったのはそのためだ。

2008年「しあわせのかおり」、2009年「RISE UP」

映画製作を記念して造られたしょうゆ「しあわせのかおり」

 それでも映画制作は前例のない取り組みであり、試行錯誤の連続だった。そんな中で出会ったのが、映画「しあわせのかおり」(2008年10月公開、配給=東映)の企画。土田さんは同作の製作にかかわることになった。監督の三原光尋さんらがイメージにぴったりだと心に留めたのが、金沢北部の小さな港町・大野の風景だった。

 藤竜也さん、中谷美紀さんが主演した同作は劇場公開終了後もゆるやかな反響を呼び、大野を訪れる観光客も増えているという。大野は歴史あるしょうゆ蔵が並ぶまちでもある。大野しょうゆ醸造協業組合ではこの映画を記念して「しあわせのかおり」と名付けたしょうゆを発売しているが、同社ではこの仕掛けにもかかわっている。

 「しあわせのかおり」で得たノウハウを基にフォーティックデザインが次に取り組んだのが「RISE UP」だ。文化資産の保存・継承し、県の個性を情報発信するため石川県が展開する「石川新情報書府」事業の採択も得た。

 撮影が進むにつれ、地域の人々と制作スタッフとの交流も深まった。主役の林さん、山下さんも終始リラックスした表情で撮影に臨んでいたという。「この映画が地域のイメージアップや観光客の増加につながれば」との期待も地域全体に広まっている。獅子吼高原はパラグライダーのメッカとして知られている。土田さんは、「RISE UP」が低迷しているスカイスポーツの人気復活の呼び水になればとも願っている。

映画を通じて石川を世界に情報発信する

獅子吼高原でのパラグライダーシーン

 7月に白山市で行われた完成お披露目の試写会には地元の中学生、高校生を招いた。「感動した」「主役がかわいい、かっこいい」といった感想に加え、「自然の風景がきれい」だという言葉も聞かれた。「映画には地域の原風景のすばらしさを伝えることで、後世に残していくという役割もある」と土田さんは語る。

 フォーティックデザインが製作参加する映画として3作目となる「華鬼」(配給=ジョリー・ロジャー)の撮影も進んでいる。累計600万アクセスを突破する人気PC恋愛小説を映像化したもので、荒木宏文さんや加護亜依さんらが出演する。こちらもオール石川ロケで、今秋に全国順次公開予定だ。

 地方発の映画を作ろうという動きが今全国各地で起こっているという。地方が単独で映画を作り、ビジネス化することは難しい。映画を形にしていくためには監督や脚本家など、さまざまなブレーンが必要だ。「夢は東京と組んで、石川を世界に情報発信すること」と語る土田さん。一方で、「日本各地に映画の拠点ができればいいですね」とも語る。