現代社会において、ラグジュアリー層が求めているものとは何か。同フォーラムに招かれた海外ゲストスピーカーの顔ぶれと講演内容は、それを物語っていた。
ゲストスピーカーとして招かれたのは、「エコ ラグジュアリー」を提唱するエンリコ・デュクロットさんと、世界的高級リゾートホテルチェーンを展開する「シックス・センス・リゾート・アンド・スパ」の創始者であり会長を務めるソヌ・シヴダサニさん。いずれも、ラグジュアリー層を顧客とし、世界最先端のリゾート経営を展開するカリスマ的存在である。
「エコ ラグジュアリー」とは、持続可能な経済と高水準のツーリズムを同時に推進する経済活動の生産プロセスを指す。デュクロットさんは、イタリアの地方でユネスコの世界遺産に登録されている2000年前の石造りの建物を18室のブティックホテルに復元するプロジェクトを地方文化の復活と並行して進めるなど、世界各地でさまざまなプロジェクトを展開する。理念を同じくする企業の参画を募って創設した「LCL World (Luxury Camps & Lodges of the World)」は、2008年時点で全世界に92の提携施設を有し、地域の自然環境や固有の伝統を壊すことなく、地域社会との調和を保ちながら上質のサービスを実現している。
シヴダサニさんは、持続可能(sustainable)、地域(local)、有機(organic)、健康・健全(wholesome)、学び(learning)、刺激(inspiring)、楽しみ(fun)を兼ねた経験(experiences)の頭文字をとった同社のコンセプト「SLOW LIFE」を紹介。「no news no shoes」で過ごす日々、とれたての地物野菜が並ぶビュッフェ、その土地ならではの景観を眺めながら味わう朝食などが、各ホテルでゲストが味わえる「特別な体験」だと強調した。そして、講演内容の多くは、クリーンエネルギーへの対応や水の浄化システムなど同社が行う多様な二酸化炭素除去の取り組みに割かれた。
ラグジュアリー層を相手に最先端のツーリズムを展開するトップリーダーの目は、その地域固有の風土や環境問題に向けられ、それがゲストの関心につながっているのである。
ILTMの調査によれば、ラグジュアリー層の旅行が短期になり回数が増す一方、旅行先によっては滞在が長期化する傾向にある。心を豊かにするような独特の経験が得られる旅行先では滞在が長期化しており、各世代が環境問題や土地固有の文化に興味を抱き、それぞれの地域の環境や文化、遺産、人々の暮らしを保持し、向上させるための行動を起こす必要性を感じているという。特にベビーブーマーの間では「学び」への意欲が高まっているとしている。
メリルリンチなどによる「World Wealth Report 2007」にも示されているように、今や社会的責任や環境問題は、ラグジュアリー層にとってのキーワードである。「ラグジュアリー」を「金持ち」「きらびやか」などと直結してしまえば、世界の現状を見失うことになる。同フォーラムで登壇した参加者に共通していたのは、「ラグジュアリー」は、食の分野であれ宿泊の分野であれ、「得がたい体験」「心の安らぎ」「心動かされる出来事」であるという認識である。「ラグジュアリーマーケットが何を考え、何をいいと思って旅をしているのか。世界の最先端で取り組みを続けている人たちの生の声を聞いたことで、地元の人々の意識を喚起できたのではないか。今回のフォーラムは、いろいろな人たちの思いと情熱の結晶。日本を世界に売るにあたり、地方都市で革新的なアイデアのもとに開催した意義があった」(朽木さん)。
裸足で過ごすこと(茂木健一郎 クオリア日記)ラグジュアリーライフスタイル国際会議(茂木健一郎 クオリア日記)
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